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白い紙の上に捺された朱色の印影、その小さな面の中には洗練された文字が巧みに配されています。並べられた文字のまとまりは、ひとつの意匠として完成された美しさを湛えています。印影の風格を決めるのは、文字ひとつひとつの形。そして、全体のバランスです。印影という小さな面の中には、ひとりの人物を象徴する力が込められています。
甲州手彫印章には、印章用に選び抜かれた書体が用いられます。印章文化数千年の歴史の中で、中国から日本に伝えられ、日本の文化のなかで淘汰された書体です。甲州手彫印章の技術は、それらの書体を、印章の中に美しく刻み出します。文字の美しさを支えるのは、伝統のなかで磨かれた豊かな感性です。刻まれた文字ひとつひとつの線の滑らかさは、彫刻の技術の高さを物語ります。
甲州手彫印章の豊かな表現力は、何代にも渡って積み重ねられた文字の知識と熟練の技によって支えられています。 |
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甲州手彫印章は、水晶印から始まりました。水晶印は、透明な石ごしに印面の朱が見える、独特の風情のある印章です。江戸時代末期に領内で巨大な水晶鉱が発見されたことから、水晶印が製作されるようになりました。甲州が水晶産地として確立していく中で、水晶の加工技術は発達していきました。印章彫刻もそのひとつです。水晶は硬く加工が難しい印材ですが、高度な技術によって見事な印章となります。水晶印の技術をツゲや水牛など様々な素材に応用することで、甲州手彫印章は発展していきました。
明治6年には、実印の重要性が法的に認められ、印章への需要が急速に高まりました。その需要に応えたのが山梨の印章制作者たちでした。製品の質の高さと、出張販売や通信販売などによる販売力で、山梨県の印章は、国内はもとより海外にまで広まりました。現在、山梨県は全国生産の60%を占める生産日本一の「印章王国」です。一大産地として量産を行う一方で、甲州手彫印章の技法は、業者の中で受け継がれ、何代にも渡り伝承され続けています。
甲州手彫印章は、全ての工程を現在も手作業で行っています。熟練した職人の手から造り出されるのは、世界に同じもののない印章です。 |
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大切な書類には判を捺す。こうした習慣は、江戸時代にはすでに一般の人々の間で日常的に行われていました。農民もそれぞれ自分自身の判子を持ち、印鑑帳という形で印鑑の登録もなされていました。当時の人々にとって、すでに判子はなくてはならないものでした。
自分で刻んだ素朴な判子を使う人もいましたが、江戸時代の中ごろには、もっぱら板木師や印判師といったプロの手による印章が用いられました。工芸品に目の肥えた江戸時代の人々のことですから、気の効いた印章はさぞかし人気があったことでしょう。
江戸時代には各地で「買物案内」と銘打った冊子が発行されていました。現在でいうところの買物情報誌です。甲州で発行された「甲府買物独案内」という冊子には、「御印判」を見出しにした板木師の広告が掲載されています。冊子を片手に、板木師の元を訪れた人々の姿が目にうかびます。
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