秋田県雄勝郡稲川町川連地区、豊かな緑と清流に恵まれたこの町で、800年に渡って川連漆器(かわつらしっき)は作り続けられています。川連の入り組んだ街並みを歩いていると、家の傍らに沢山の薄板が積み上げられた光景を、そこここで目にすることができます。木を切るモーターの音に誘われて工房を覗けば、丸太を輪切りにしている姿が目に入ります。奥羽山脈の懐に抱かれた4平方キロ程の小さな町の中に、漆器づくりに関わる企業は174。600名を優に上回る人々が日々漆器づくりにいそしんでいます。
天日で乾燥された板からは膳や重箱や盆が、輪切りにされた丸太からは、椀などろくろで挽く器物などが作り出されます。良質な木材から作られた素地に丹念に加工を施し、川連漆器が作り出されます。しっとりとした感触で手になじむ川連漆器の中には、秋田の澄んだ空気と透明な光が塗り込められています。
漆器の原料となる漆は、漆の木から採取された樹液です。漆は、酸やアルカリ・塩分・アルコールなどの化学物質に強く、いったん固まってしまえば、容易に溶けることはありません。そんな漆で塗装した漆器の食器としての安全性は、数千年に及ぶ長い歴史が証明しています。
漆は水を弾く性質をもつため汚れが落ちやすく、また、臭いが付きにくいという性質も持っています。そんなところにも、漆器が食器として愛用されてきた理由があるのかもしれません。
川連漆器の素地は木。木を素地とする漆器は、器に料理の熱が伝わりにくいため、熱い料理を盛りつけても安心して持ち運ぶことが出来きます。毎日使ってあちこち塗りがはげてしまっても、塗り直して、また新品同様にすることが出来るのも漆器ならではの特長です。「使い捨て」とは違ったモノとの付き合い方がここにあります。修繕して長く使い、役目を終えた器を処分するときに有害な物質を出さない。人にも環境にも優しいそんな漆器の特徴を、川連漆器は大切にしています。
川連漆器の特徴のひとつに、堅牢さがあります。数百年に渡って、生活用具として人々に愛用された川連漆器の堅牢さは、表面からは見えない下地の加工の上に成り立っています。「地炭付け」「柿研ぎ」や生漆による「地塗り」といった伝統的な下地工法は、現在も受け継がれ川連漆器の品質を支えています。
川連漆器を手にした時に感じる、しっとりとした触感は、「花塗り」と呼ばれる技法によって作り出されています。上塗りを塗り上げた所でそのまま乾かして仕上げるため、漆をムラなく平滑に塗らなければなりません。埃ひとつ付けないように全神経を集中して塗り上げる、最も高度な技術が必要な技法です。
表面を華やかに彩る沈金の美しさも、川連漆器の魅力のひとつです。沈金とは、漆器の表面に線画を刻み、そこに金箔を埋め込んで図案を表現する技法で、川連漆器の沈金は、繊細で立体感のある表現が特徴となっています。
普段使いに応える堅牢さと使い心地の良さ、そして心華やぐ美しさで、川連漆器は昔も今も日々の暮らしに潤いを与え続けています。
秋田県漆器工業協同組合