【クローズアップ】
 
小紋の美を継承する巧みの技
 
友禅染や小紋・ゆかたなどの図柄や文様を染める際に用いられる伊勢形紙。特に小紋にいたっては全国の99%が伊勢から出荷される形紙で染められるという。着物の小紋にこだわり続ける職人に話を聞いた。
 
 

一定のリズムで淡々と彫り進める
中学卒業のあくる日から職人に

伝統的工芸用具に指定されている伊勢形紙には、表現する柄によって錐彫り、道具彫り、突彫り、縞彫りという四つの彫刻技法がある。その中でも錐彫りの工芸士である二代目六谷梅軒さん。初代六谷梅軒は父であり錐彫りの人間国宝だった。中学卒業のあくる日から仕事を始めたそうだ。「ちょうど父が人間国宝の内示を受けた頃で、後継者がいると望ましいということだった。自分の場合はそのような特殊な事情があったが、家業としてやっていて自然に後を継ぐという人が多かったし小さい頃から親の仕事を見てきて(後を継ぐ)予感はありました。」
 
 

六谷さんがつかっている彫刻刀
伊勢形紙の彫刻は道具づくりから

「小学校の頃から手伝っていたから、彫り方は見よう見まねで覚えられた。彫刻に関して苦労という苦労をした覚えはないね。」しかし彫刻刀づくりには苦労したという。錐彫りの場合半円形の彫刻刀を使うが、半径が1ミリにも満たないものから大きなものまで、はがねを切り曲げて自作する。すべて微妙に太さが異なる彫刻刀が200本以上あるという。「道具を作ったり研いだりすることは、形や作り方を見て知っていたけど、刃物は自分で経験して苦労しないと、一人前にならない。20年して切れ味や研ぎ方がようやく分かった。未だに思い通りに刃が出来たと思ってもうまく彫れないことがある。」だから「彫るときはいろんなことを考えてるよ。軽く音を流していることもある。でも道具を作るときは死にもの狂い。」お正月には彫刻刀の刃を一本一本すべて研ぐ。200本以上研ぐと10日はかかるが、それを年中行事にしているそうだ。
 
 
先代から学んだこと

「先代とは20年間一緒に仕事をしました。技術は見て学ぶものですが、仕事に対する情熱、姿勢もやはり見て覚えるものなんですね。私は風邪を引いたりしたら休もうかと思ったりしたけど、父は毎日毎日、絶え間なく仕事を続けていました。」プレッシャーについても尋ねてみた。「もちろん感じていましたが、努めて思わないようにしました。それに(職人人生の)半分は親方と一緒に仕事できましたから。ただひとつ言えることは、これから先親方を越えられるかどうかはわからないけど、(生きている間には)通り越さなかったということです。だから一年でも長生きしよう思うてます」

作業台。24×39センチで完成に約3週間かかるという
 
着物は日本の民族衣装、だからなくならない

着物を普段着として着ることがなくなり、バブル崩壊後は嗜好品としての着物需要も減った。仲間の間でも着物離れや後継者不足の悩みが話題だとか。六谷さん自身、後継者がいない。「技術は伝えられたとしても、仕事は取ってあげられない。何十年もやって技術を身につけたとしても将来は?ということになると、責任が持てないから。伝える以上は本職にしてほしいし」今までも弟子入りしたい、という人は何人かいたが、そのたびに「学校に行きなさい」と帰したそうだ。しかし「着物は日本の民族衣装だから、決してなくなることはない、ということを望みにしています。」と六谷さんは力強く語った。
 
 

六谷さんの形紙で染められた小紋
小紋の着物に希望を託して

小紋の着物にこだわっていきたいと語る六谷さんは最後にこう語った。「今までは着物の会社から『こんな柄をデザインしてほしい』と言われることが多かった。これからは自分のデザインをして、今までになかったような小紋を作りたい。もちろん自分だけでなく、みなさんに納得していただけるものです。あとは伊勢形紙の魅力を分かった上で、仕事をしようという人に巡り会えること。この二つが希望です。」
 
 
 
<職人プロフィール>

六谷 梅軒
(ろくたに ばいけん)
昭和28年より伊勢形紙に従事。
着物の小紋を生業とする伝統工芸士。
 
 

 こぼれ話 

伊勢形紙の挑戦 新たなる伝統への第一歩


お土産品のしおり
戦後は着物を普段着として着ることはほとんどなくなり、特にバブル崩壊以降は需要が減る一方だとか。しかしその高度な技術を生かし、着物の形紙以外の新製品が、地元の産地組合によって積極的に開発されています。
ふすま・欄間・障子・屏風・ついたてなどの和室装飾は、ゆったり落ち着いた空間を生み出します。ユニークな広告塔は、一見伊勢形紙とは思えないものですが店舗装飾にぴったり。洋室向きのスタンドや伝統工芸士による芸術的な美術形紙などは高級インテリアとして。
また比較的安価な額入り色紙やしおり、コースターなど身近に伊勢形紙を感じられる商品も販売。お土産品として売り出され人気を博しています。


趣のある伊勢形紙のふすま


風炉先屏風


美術形紙は多種多様な文様が揃っている